泌尿器科Urology

手術支援ロボットダヴィンチによる前立腺がん手術

低侵襲手術支援ロボット da Vinci(ダヴィンチ)

鎌ケ谷総合病院泌尿器科では、がん治療三本柱の手術療法化学療法放射線療法の充実を図り、より良い治療環境の整備を進めています。2012年には当院のがん手術を世界水準に引き上げるべく、手術支援ロボット「da vinci S HD(ダヴィンチ エス エイチディー)」を千葉県内でいち早く導入し、前立腺がんの治療を開始。2012年9月の運用開始から2018年末までのダヴィンチによる前立腺がん手術件数は407件に上ります。

2018年秋には当時最新型となるda vinci Xi(ダヴィンチ エックスアイ)を新たに導入。現在もダヴィンチを活用した低侵襲で身体的負担の少ない前立腺がん治療を提供しています。

低侵襲手術支援ロボット ダヴィンチとは

手術ロボットと聞くと、自動で手術をするような装置を思い浮かべるかもしれませんが、ダヴィンチは医師が内視鏡カメラや「切る」「掴む」など様々な機能を有する鉗子(かんし)を装着したロボットアームを操作して手術を行う装置です。あくまで手術(操作)をするのは医師で、ロボットは手術のサポートを行います。

ダヴィンチはペイシェントカートというロボットアーム、医師がロボットアームを操作するためのサージョンコンソール、医療スタッフが手術のサポートを行うためのビジョンカートの3つの装置で構成されています。

①サージョンコンソール

サージョンコンソールには術野を立体的に見渡せるモニターと、ロボットアームを操るためのコントローラーを備えています。医師はこの装置でダヴィンチを操作して手術を行います。

ダビンチは医師の手の動きをより細かく精密な動作に変換します。

②ペイシェントカート

医師の指先であり、メスでもある様々な種類の鉗子(かんし)と、体内に挿入する内視鏡カメラを装着するロボットアームです。人の手のように手ブレすることの無い精密な動作で正確な手術を行います。

③ビジョンカート

術者が見ている映像がビジョンカートに映し出されます。医療スタッフはその映像を見ながら術者のサポートを行います。

ダヴィンチによる前立腺がん手術について

ダヴィンチでの前立腺がん手術では「前立腺全摘除術」を行います。
この手術では、がんに侵された前立腺と周辺組織である精嚢を切除することになります。手術の際はお腹に8~12ミリ程度の切開を6か所に行い、そこからロボットアームに装着した3D内視鏡カメラと「掴む」「切る」といった医師の指先やメスの機能を持つ鉗子(かんし)を挿入して手術を行います。

お腹にロボットアームに装着した3D内視鏡カメラや鉗子を挿入。術者はこの装置を操作して手術を行います。
※写真は説明用イメージです。
写真はロボットアームに装着した内視鏡カメラと医師の指先となる鉗子(かんし)を挿入した状態です。炭酸ガスを注入することでお腹を膨らませ、視野と手術操作に必要な空間を確保しています。

術者はサージョンコンソールという3Dビジョンモニターとコントローラーを備えた装置で『明るく自由に拡大できる立体映像』で術野を見ながら『人の手を遥かに凌ぐ可動域』と『手ブレを排した繊細な動作が可能な鉗子(かんし)』で手術を行います。

前立腺は体の奥まった狭い場所にあるため、これらの機能が手術の正確性に大きく寄与します。患者さまの状態にもよりますが、手術の所要時間は麻酔にかかる時間を含め概ね4時間程度、入院期間は8~10日間程度です。

da Vinci(ダヴィンチ)による前立腺がん全摘除術の合併症

手術中の合併症

出血

出血はどの様な手術でも共通する合併症です。ダヴィンチによる前立腺全摘除術においては、輸血が必用となる出血が起る頻度は5%未満とされています。

直腸等の腸管の損傷

前立腺周囲の炎症が強い場合や、癌が浸潤している場合は稀に剥離中に直腸などの腸管を損傷することがあります。損傷が小さければ1週間程度の絶食で治癒しますが、損傷が大きい場合は一時的な人工肛門造設が必要になります。

ガス塞栓

ダヴィンチや腹腔鏡での手術では、お腹に二酸化炭素(炭酸ガス)を充填して手術に必要な空間を確保します。二酸化炭素(炭酸ガス)を充填した際に二酸化炭素が大量に血液中に入り込んで肺の末梢血管が詰まって呼吸障害を起こす合併症です。状態が良くなるまで人工呼吸器による呼吸管理が必用となりますが、重篤なものは稀です。

開腹手術への移行

癒着や危険な出血、その他の合併症で安全性の確保が困難であると判断した際は開腹手術に移行します。

手術後の合併症

尿漏れ

膀胱と尿道の吻合部(ふんごう/つなぎ目)から骨盤内に尿が漏れることがあります。吻合部が問題なく癒着するまでの間、ドレーンや尿道カテーテルを留置して対処します。

静脈塞栓

エコノミークラス症候群とも言われます。長時間同じ姿勢をとり続けることで静脈内(特に下肢)の血が固まって血栓ができます。血栓が血管を伝わって肺の血管まで飛んで肺の血管を詰まらせると肺塞栓を起こします。頻度は極めて低いのですが、重症の場合は死亡する危険性もあるため、弾性ストッキングを装着するとともに、下肢にポンプを装着するなどして血が固まるのを予防します。静脈塞栓が疑われた場合は、血栓を溶かす薬を投与します。

皮下気腫

ダヴィンチや腹腔鏡での手術では、お腹に二酸化炭素(炭酸ガス)を充填して手術に必要な空間を確保します。その際に使用した二酸化炭素が皮膚の下にたまって不快感を感じることがありますが、殆どの場合数日で自然吸収されます。

感染症

ダヴィンチによる手術は術後に手術に伴う傷が少ないため細菌感染の頻度は少ない傾向にありますが、感染を起こした場合は抗菌薬の使用など、状態にあった治療を行います。

腹膜炎

手術で腸を損傷した場合、腹膜炎になり再手術となる場合があります。

退院後の合併症

尿失禁(尿漏れ)

多くの場合、手術を受けた方は尿道括約筋の動きが一時的に低下するため尿失禁(尿漏れを)を起こします。手術直後は尿失禁の症状が強く出ますが、徐々に回復して一年後には約90%の方が問題ないレベルに回復します。

腸閉塞

手術後に腸が癒着して再手術となることがあります。

膀胱と尿道の吻合部(ふんごう/つなぎ目)の狭窄

膀胱と尿道の吻合部(ふんごう/つなぎ目)が狭くなって排尿障害になることがあります。高度な狭窄を認めた場合は内視鏡的な処置が必用になります。

創ヘルニア(脱腸)

手術によって緩んだ筋膜から皮膚のすぐ下まで腸が出てくる所謂「脱腸」になる場合があります。