専門医療・TOPICS
当院の脳神経外科が扱う脳疾患の治療の一部を紹介致しますので、治療でお悩みの方やご家族さまの参考として頂ければ幸いです。
脳神経外科部長 氏家 弘
片頭痛・緊張型頭痛について
多くの方が悩む「頭痛」。一口に頭痛といっても様々ですが、「脳に何らかの異常をきたした場合の頭痛」と「MRIやCTスキャンでは頭蓋内に異常がみつからない頭痛」の二つに分ける事ができます。そして、なんと頭痛で受診されれる方の約9割は後者なのです。このような頭蓋内に異常が無いにも関わらず頭痛を感じる、いわゆる頭痛持ちとされる方は10人に一人程度とされています。
緊張型頭痛と片頭痛
「頭蓋内に異常がみつからない頭痛」は緊張型頭痛と片頭痛に二分されます。緊張型頭痛は頭部を支える頭頸部の筋肉、部位でいうと頭や首、肩の周りから背中までの筋肉の疲労からくる頭痛です。長時間同じ姿勢で仕事やスマホ操作を行うなどをしていると、首こりや肩こりになって、そこから緊張型頭痛が引き起こされます。
対して片頭痛は、顔の感覚(熱い、冷たい、痛いなど)を脳に伝達する三叉神経と、硬膜動脈の炎症によって引き起こされます。片頭痛は緊張型頭痛と併発することがよくあり、また、「女性に多い」「遺伝的傾向を認める」という特徴があります。
天候で頭痛になることも
緊張型頭痛と片頭痛、どちらの頭痛も月に5日以上の頻度で頭痛が続いた場合は脳が過敏になり、頭痛が起きやすい状態になってしまいます。台風など、低気圧が来た際に頭痛が起きる方は脳が過敏になっている可能性があるのです。
気圧とは空気の重さが身体に乗っている状態であり、低気圧になるとその重さが軽くなります。そのため、皮膚の近くを流れている静脈の圧が下がり、脳脊髄液が静脈へと流れやすくなります。その結果、脳圧が下がって脳を囲んでいる硬膜が内側に引っ張られ、硬膜動脈がそれを感知することで痛みを引き起こします。
また、起床時に頭痛を感じる場合は、長時間の臥床(がしょう/体を横たえること)で脳脊髄液の
静脈への流れが悪くなって脳圧が上昇し、脳を囲んでいる硬膜が今度は反対側に圧迫されて痛みを引き起こします。大抵の方はこの程度の脳圧の変化では痛みを感じませんが、もしここで述べたような頭痛が起きているのであれば、繰り返す頭痛によって脳が過敏になっている事が原因です。
緊張型頭痛と片頭痛の治療方法
緊張型頭痛の治療では、日常生活にストレッチ等の運動を取り入れつつ、鎮痛剤(NSAIDs)と筋肉の緊張を和らげる薬を処方します。
片頭痛の治療では、これまでのトリプタン製剤に加え、硬膜血管の炎症を抑える抗CGRP抗体の注射を使います。抗CGRP抗体の臨床効果は目覚ましく、鎌ケ谷総合病院の外来でも患者さんに喜ばれています。頭痛の治療も日々進歩していますので、頭痛でお悩みの方は氏家医師の外来をご受診下さい。
未破裂脳動脈瘤について
『未破裂脳動脈瘤が頭の中にあります。破裂するとくも膜下出血を起こし、突然死の可能性があります。』と言われて困惑していませんか。さらに『未破裂動脈瘤という爆弾を処理するためには、手術しかありません。手術方法には、開頭クリッピング術と血管内外科手術による動脈瘤塞栓術があります。』というような説明を受け驚いていませんか。そして手術を受けるためには仕事を休むだけでなく、後遺症や時には何らかの生命の危険を伴うこともあります。ここに最大のジレンマが起きます。
未破裂動脈瘤は破裂すると死亡率は50%近く、予防的な手術でも合併症の起きる確率は2~3%です。そうです、手術すべきか、否かという決断を迫られるのです。
しかし、焦って決断をする前によく考えてみる必要があります。未破裂脳動脈瘤の年間破裂率はせいぜい1~2%です。手術を受けるという決断の前に貴方の未破裂動脈瘤が、近い将来本当に破裂するのかどうか知る必要があります。もちろん将来破裂しない動脈瘤を手術する必要はありません。当院、脳神経外科は、この重大な質問『手術すべきか、否か』に答えます。
未破裂脳動脈瘤はいつ破れるか
脳動脈瘤は生まれた時からあるものではありません。脳動脈瘤の出来やすい体質の人に喫煙等のストレスが動脈に加わった時に、出来ます。
上の3枚の絵は「出来かけた動脈瘤」「少し成長した動脈瘤」「破れる直前の動脈瘤」を模式化したものです。左の絵では動脈瘤の中に血液が勢いよく入り、動脈瘤の壁に沿ってスムースに流れているのがわかります。しかし真ん中になると動脈瘤の中に入った流れは、動脈瘤の奥まで行かずに奥には二次渦流れが出来ています。
そして右の動脈瘤になると二次渦流れの壁のところが少し膨らんで、娘動脈瘤(動脈瘤に更にできた動脈瘤)が出来ています。この娘動脈瘤の中の流れはほとんど停滞しています。このように娘動脈瘤が生じて流れが停滞すると、動脈瘤はじきに破裂します。
簡単に言うと、動脈瘤の中の流れがスムースでなくなると、破裂しやすくなるのです。
破裂の危険性のある未破裂脳動脈瘤を見つけた場合には、血管内外科手術か開頭クリッピング術か、どちらの手術の危険性が少ないか判断して治療方針を決めます。
くも膜下出血について
困難な脳動脈瘤手術の成功は、術者の卓越した経験と技量に加えて、最新の手術機器、器具に依存しています。両者が揃わなければ、手術の成否は患者さんにとって生命をかけた運試しになるかもしれません。鎌ケ谷総合病院では、開頭手術だけでなく、切らずにすむ血管内外科手術による動脈瘤塞栓術も行っています。
執刀医は血管内治療を兵頭明夫医師、開頭術は氏家弘医師が責任をもって行います。
この2枚の写真は3D-CTAで、左が手術前、右が手術後です。破裂した左内頚動脈瘤と同時に右中大脳動脈瘤も一側の左開頭でクリップ(青い部分)されています。当院ではコイルだけでなく、どのような部位でもクリップできます。
脳腫瘍について
『MRIを撮った後の説明で脳のこの部位に影があり、脳腫瘍が疑われます。脳神経外科にかかってください。』と言われてびっくりしていませんか。脳腫瘍と診断され、絶望する前に私達にご相談下さい。
脳腫瘍は、大きく分けると良性と悪性があります。良性腫瘍は全摘出すれば完治しますが、悪性腫瘍は脳組織にしみ込むように浸潤していくので、全摘出すると一緒に正常な脳の一部も取れてしまい、術後に手が動かなくなったり、話が出来なくなったりします。また、良性といわれても脳腫瘍が脳の深いところにあると、手術が非常に難しくなります。そのため、『術後合併症は覚悟してください』と言われるのです。
脳腫瘍には、脳組織から発生した原発脳腫瘍と、肺などから脳へ転移した転移性脳腫瘍に大きく2分されます。原発性脳腫瘍の場合は、髄膜腫25%、神経膠腫(グリオーマ)25%、下垂体腫瘍20%、聴神経腫瘍10%この4つの腫瘍で原発性脳腫瘍の80%を占めます。この中で脳組織にしみ込むように浸潤、増大していくのが神経膠腫であり、その最も悪性のものは膠芽腫と言われ診断後の生存期間は2年もありません。神経膠腫は脳組織の中に有るので、大切な脳組織を壊さないで摘出しなければならず、特別な工夫が必要です。当院では、低侵襲覚醒下手術を取り入れています。
実は脳には知覚神経がありません。そのため、抜歯をする時のように頭皮の局所麻酔だけで、痛みを感じないで開頭ができ、脳を切って脳腫瘍を取り出すことができます。手術中患者さんと話をし、握手をしてもらいながら脳腫瘍を摘出するので、脳腫瘍の近くの言語中枢や運動中枢を損傷することなく脳腫瘍を摘出する事ができます。
髄膜腫、聴神経腫瘍などの良性腫瘍は、運動神経や感覚神経のモニタリングをして、それらの神経の損傷を避け、最後に頭蓋底手術のテクニックを駆使し脳腫瘍の全摘出を目指します。また髄膜腫では術前に腫瘍血管の塞栓術を行い、術中の出血を限りなく抑えかつ腫瘍を柔らかくして摘出することにしています。
しかし、いくら良性腫瘍と言っても全摘出と引きかえに手が動かなくなった等の合併症が残っては困ります。当院では、患者さんが決して手術前の状態よりも悪くならない、いわゆる合併症のでない手術を目指しており、脳腫瘍が脳組織や正常神経に強く癒着している場合には、その脳組織や神経を傷つけないために脳腫瘍の全摘出をあえて行いません。その様な場合には術後にガンマナイフ治療を行っています。良性腫瘍なので少しくらい残っていても大きくならなければ、問題はないのです。
もし皆さんが、皆さんの家族が、『脳腫瘍がある』『この手術はむずかしい』と言われた時には、当院、脳神経外科をご受診下さい。
脳幹部海綿状血管腫について
脳幹部海綿状血管腫は脳神経外科領域において最も難しい手術の一つです。脳幹部にはたくさんの神経核と神経線維があるため、それらの神経に障害を与えずに摘出するのは時に至難の業です。治療の際は出来る限り安全な手術ルートを選び、モニタリングを活用しながら摘出していきます。手術に踏み切る際も、慎重に手術時期を選んで行います。脳幹部海綿状血管腫と言われ、治療でお困りの際は是非ご相談下さい。
脳動静脈奇形について
脳動静脈奇形は、私が若い時から全力を傾けて手術をしてきた病気です。
治療の際は、手術前の検討が非常に大切で、顕微鏡下手術、血管内外科塞栓術、ガンマナイフのどれか、またはそれらの組み合わせた治療方法選びます。
当院では3テスラMRIを用いてfunctional mapやtractographyを行って、運動神経域や言語中枢、運動神経線維の確認を行って脳動静脈奇形との関係を探り、脳血管撮影で危険な脳動静脈周囲の赤虫(脆弱な拡張した毛細血管)の有無を確認して手術による合併症を回避します。手術中には超音波およびカラードップラーモードで脳動静脈奇形を描出して慎重に摘出術を行います。
術中または手術直後には、必ず脳血管撮影を行い脳動静脈奇形の全摘出を確認します。勿論同時にCTスキャンも行い、脳に手術による異常が出ていないか確認します。脳動静脈奇形が大きい場合には2回に分けて手術を行う場合もあります。
2021年4月からは兵頭明夫先生が脳血管内センター長として赴任されたので、ほとんどの場合塞栓術後の摘出術となりますが、しかし何といっても手術を成功させるための最大の武器は、数多くの脳動静脈奇形を手術してきたという経験です。危険な手術にはやはり場数がものを言うのです。
脳動静脈奇形と診断された場合には、当院でのセカンドオピニオンも検討されてはいかがでしょうか。
この脳動静脈奇形は、後頭葉の視覚野にあったのですが、開頭術前に脳動静脈奇形に対して塞栓術を行い、術中に出血をしないようにしてから、脳動静脈奇形のみをカラードップラー画像で確認しながら摘出しています。当院では各種モニタリングを使用して常に安全な手術を心がけています。
脳血管内治療センターと連携した治療
もし私が誰かに「脳神経外科医を紹介して欲しい」と頼まれたら、最初に紹介するのが兵頭先生です。当院の脳血管内治療センター長の兵頭明夫先生には、私が東京労災病院在籍時に顧問になっていただき、数多くの血管内外科治療を指導していただきました。
兵頭先生は血管内治療だけでなく、開頭手術も行ってきたいわゆる二刀流の脳神経外科医です。2021年4月から兵頭先生が鎌ケ谷総合病院に常勤医(当院脳血管内治療センター長、徳州会全体の脳血管内治療顧問)として着任され、共に治療を行うことになり、身の引き締まる思いです。
私達脳神経外科は、脳血管内治療を担当される兵頭先生、そして脳神経外科専門医で回復期リハビリテーションを担当される杉本耕一先生と連携した脳疾患治療を提供して参りますので、お困りの際は遠慮なく当院脳神経外科にお越し下さい。
脳血管内治療センター長 兵頭 明夫先生